米国シノプシス
シニア・プロダクト・マーケティング・マネージャー Ron DiGiuseppe
データセンターのワークロードおよびコンピューティングの実行は、伝統的なデータセンターからハイパースケール・データセンターへと移り続けています。「Cisco Global Cloud Index: Forecast and Methodology, 2016-2021」によると、「2021年には全ワークロードおよびコンピューティング・インスタンスの94%がクラウド・データセンターで処理される」と予測されています(図1)。多くのアプリケーションがハイパースケール・パブリック・クラウドでホスティングされる傾向にある中で、ミッション・クリティカルなワークロードおよびコンピューティング・インスタンスは、多くがプライベート・ハイパースケール・データセンターでホスティングされるなど、プライベート・ハイパースケール・データセンターも「2016年から2021年まで11%の年平均成長率(CAGR)」が予想されています。メガ・クラウド・プロバイダはカスタマイズしたラック・スケール・システムを開発していますが、プライベート・クラウド・プロバイダは、一般にコンバージド・インフラ(CI)またはハイパー・コンバージド・インフラ(HCI)システムを採用することで効率化と管理コストの削減を図っています。CI/HCIシステムはシステムの設定と制御を自動化でき、コンピューティング、ストレージ、ネットワークの動作を可視化できるため、プライベート・クラウド・プロバイダは新規システムを迅速かつスケーラブルに運用できるようになっています。CI/HCIシステムへの移行は半導体SoC(システム・オン・チップ)サプライヤにも影響を与えており、サーバ・プロセッサ、低レイテンシのSSD(Solid State Drive)ストレージ、ネットワーキング・スイッチ・デザインの最適化が求められています。CI/HCIシステムへの需要の高まりに応えるには、まったく新しいクラスのSoCアーキテクチャが必要であり、こうしたSoCを設計するには、PCI Express(PCIe)、DDR5、キャッシュ・コヒーレンシ、NVM Express(NVMe)SSDストレージ、最先端の高速Ethernetネットワーキングなどの業界標準規格に対応した最新のIPが必要となります。
CIシステムは、これまでデータセンター内で個別に存在していたコンピューティング、ストレージ、ネットワーク、および管理機能を1つのプラットフォームに統合したものです。包括的なCIおよびHCIシステムを導入することによって全体的な管理タスクが自動化されるため、IT部門はインフラストラクチャの管理から解放され、アプリケーションの管理に専念できるようになります。事前統合済みのラック・レベル・システムでも全体的な複雑さ、統合の手間、運用コストは軽減されますが、CI/HCIには短期間でのシステムの運用開始、インターオペラビリティの向上、管理の一貫性といった利点があり、トレーニングとサポートのオーバーヘッドも軽減されます。効率と性能の要求を満たすため、CI/HCIシステムの構築に使用するSoCの構成エレメント(設計用IPなど)は現在、プロセッシング、メモリー性能、コネクティビティの面でさまざまな最適化が進められています。
PCIe IPインターフェイス上で動作するNVMeプロトコルを利用してSSDをサーバCPUに直接接続し、キャッシュ・アクセラレータとして使用すると、頻繁にアクセスするデータ(ホット・データ)を極めて高速にキャッシュできます。PCIeベースの高性能NVMe SSDはI/O動作の効率が非常に高く、低レイテンシの読み出しが可能なため、サーバの効率が向上し、外部ストレージ・デバイスのデータにアクセスする必要性が少なくなります。PCIeベースのNVMe SSDによるサーバ・アクセラレーションは、データベース・クエリをターゲットにしたプライベート・クラウドなど、大量のトランザクションが発生するアプリケーションに適しています。
PCIeベースのNVMe SSDを使用したデータベース・アクセラレーションに加え、CIおよびHCIシステムはPCIeスイッチ・アーキテクチャを使用してホスト・プロセッサ上の人工知能(AI)アプリケーションも高速化します。ディープ・ラーニングには非常に高い性能が要求されるため、AIサーバにはプロセッサ・アクセラレーションが必要です。PCIeベース・スイッチ・アーキテクチャは非常にレイテンシが小さく、図2のような方法でホスト・プロセッサをGPUおよびハードウェア・アクセラレータに接続すると、ディープ・ラーニング・アルゴリズムの実行が最適化されます。キャッシュ・コヒーレンシが要求されるアプリケーションでは、PCI Expressプロトコル・スタックをベースにしたCCIX(Cache Coherent Interconnect for Accelerators)プロトコルを使用すると、ホスト・プロセッサとハードウェア・アクセラレータを25 Gbps(近い将来、32 Gbpsへ引き上げ)のデータ・レートで接続できます。CCIXでは、メモリー更新時に特別なコピー動作なしにシステムのすべてのコンポーネントを更新するコマンドが定義されており、システムからは1つのメモリー空間として認識されます。CCIXはスイッチ・トポロジ、直接接続、メッシュ接続をサポートしています。
コンピューティング、ストレージ、ネットワーキングを集約したコンバージド・システムでは、ホスト・プロセッサ上で仮想アプリケーションを実行するために最高性能のDRAMソリューションが必要です。業界では現在、DDR4 DRAMから次世代DDR5およびHBM2 DRAMへの移行が進んでいます。DDR5ソリューションは最大データ・レート4800 Mbpsで動作し、1チャネルで複数のDIMM(Dual In-Line Memory Module)と最大80ビット幅で接続することにより、ディープ・ラーニングなどのワークロード処理速度を向上させます。また、DDR5はインラインまたはサイドバンドECC(誤り訂正符号)、パリティ、データCRC(巡回冗長検査)など信頼性・可用性・保守性(RAS)も改善されており、システムのダウンタイムを削減できます。HBM2は、DDR5/4 DRAMに比べ帯域幅が格段に広く、データ・アクセス時のビットあたり消費電力も最小に抑えられており、非常に効率の高いソリューションです。SoCを設計する際、アプリケーションで帯域幅を重視する場合はHBM2メモリー、容量を重視する場合はDDR5を選択し、AIアクセラレーションのように広帯域幅と大容量の両方が必要なアプリケーションではHBM2とDDR5を併用するようにします。
従来のエンタープライズ・データセンターは、EthernetスイッチとVLANタグで構成したツリー・ベースのネットワーク・トポロジを使用していました。このトポロジはネットワークへのパスを1つだけ定義し、伝統的にサーバ間のノース-サウス・データ・トラフィックを処理していました。プライベート・クラウド・データセンターで使用されるCIおよびHCIシステムは、25G、50G、100G、または200G Ethernetリンクによるフラット型の2層リーフ&スパイン型アーキテクチャを使用しており、仮想化サーバは多くの仮想マシンにワークフローを分散できます。8チャネルの56G PAM-4 PHY IPを使用した最新の400G OSFP(Octal Small Formfactor Pluggable)マルチモード・トランシーバは、複数の56Gリーフ&スパイン・リンクを束ねることによって、最大400G Ethernetまでのデータセンター・ネットワーク・トポロジをサポートします。現在、業界では112G PAM-4 Ethernetリンクによる400G Ethernetシステムへの移行が計画されており、800G Ethernetアプリケーションへの移行も視野に入っています。
データセンター・ネットワークを簡略化するもう1つのアプローチとしてCI/HCIシステムが使用しているのが、SDN(Software Defined Network)です。SDNでは制御がデータパスから切り離されるため、ネットワーク管理が容易になります。OpenFlowなど共通のソフトウェア・スタックを使用することにより、業界全体で一貫性のあるソフトウェア環境でCI/HCIシステムの制御が可能となります。SoCを設計する際に、独自規格のソフトウェア・スタックではなくOpenFlowを使用してプライベート・クラウド・データセンター内を流れるデータを管理することにより、ユーザーはネットワーク・ハードウェア機器に物理的にアクセスしなくても、非常に簡単に(仮想的に)ネットワークをプロビジョニングできるようになります。
CI/HCIシステムは、ハイパースケール・データセンターの3つの中心要素であるコンピューティング、ストレージ、ネットワーキングを1つのプラットフォームに統合したものです。CI/HCIシステムを導入することで、これまで切り離された形で個別に存在していた各種システム、および管理ツールを置き換えることができます。エンタープライズ・データセンターがプライベート・クラウドへの移行を進める中、仮想化を利用したサーバおよびデータセンター統合により、物理サーバの台数を削減しながらこれまで以上のワークロードを処理することが可能になります。CI/HCIシステムは、業界最先端のIPアーキテクチャおよびインターフェイス・プロトコルを使用することにより、データベース・クエリやディープ・ラーニングなど低レイテンシが要求されるアプリケーション最適化を図っています。CI/HCIシステムのハードウェア統合には、まったく新しいクラスの最適化済みプロセッサ、先進のメモリー・テクノロジIP、IPインターフェイス、NVMe SSD、キャッシュ・コヒーレント・アクセラレータを使用します。
プロセッサIP、先進のメモリーIP、コネクティビティIP、NVMeストレージ、キャッシュ・コヒーレント・アクセラレータを統合してCI/HCIシステム向けSoCを設計する際には、コスト、消費電力、性能、開発スケジュールなどのテクノロジ・トレードオフを検討する必要があります。図3は、ホスト・プロセッサ、セキュリティ・アルゴリズム、システム・メモリー、コネクティビティ、アクセラレータで構成した先進のAIサーバSoCを示したものです。
シノプシスは、CIおよびHCIシステムをサポートしたクラウド・コンピューティング・アプリケーション向けSoCの開発をサポートした高品質なシリコン実証済みIPを幅広くご提供しています。シノプシスDesignWare®インターフェイスIP、プロセッサIP、ファウンデーションIPは最適化によって高性能、低レイテンシ、低消費電力を実現すると同時に、先進の16 nm~7 nm FinFETプロセス・テクノロジをサポートしています。
1 Cisco Global Cloud Index: Forecast and Methodology, 2016–2021(2018年2月)