QuantumATK – ニューリリースノート

QuantumATK U-2022.12のリリースを発表します。このQuantumATK原子スケールモデリング・プラットフォームの最新版では、多数の新機能の搭載し、また、機能と処理性能を向上しました。なお、サービスパックQuantumATK U-2022.12-SP1 (バク修正版) が2023年3月6日リリースされました。

メンテナンスサービスを受けておられるお客様SolvNetPlusから、QuantumATK U-2022.12-SP1、リリースノートのダウンロードが可能です。

現実的な構造や熱的性質の研究のための機械学習(Machine-Learned (ML))力場関数

本リリースでは、Moment Tensor Potentials (MTPs)を使用して ML力場フレームワークの開発を続けています。MTPの利用により、DFTと比較して計算時間が1/1000~1/10,000に短縮されます。DFTで取り扱い不可能な大規模系や時間スケールの計算がab initio 精度で可能になります。

  • 様々なバルク材料及び界面系に対して、トレーニング済みMTPを完備したMTPライブラリが利用可能。

コアMTPフレームワークの更新

  • より柔軟なポテンシャル展開係数により、多元素系に対する計算精度を大幅に改善。
  • アクティブラーニング用の新しいextrapolation gradeアルゴリズム(Query-by-Committee)を実装。
  • 最も重要なMTPトレーニングのワークフローは、NanoLab GUI の新規Workflow Builderからすばやく簡単に設定可能。
  • NanoLabのData ToolにおけるMTPアナライザーを用いると、エネルギー、力、ストレスに関して、MTPと参照DFTの相関関係のプロットが可能。
  • トレーニングプロトコルを更新(合金系のトレーニングデータの生成と界面系のトレーニングプロトコルを改善)。
  • MTPトレーニング機能の改善
  • CrystalPropertyValidatio解析オブジェクト

トレーニング済みMTPライブラリ

  • 新規のトレーニング済みMTPモデル
  • HKMGスタックと界面系の再トレーニング済みMTPモデル (ゲート金属RuとSc、そしてこれらとHfO2 の界面を追加して、再トレーニングを実施)。
  • TiNAlOポテンシャルの再トレーニングによる精度の向上

Multilayer Builder GUIを使用した多層スタックの生成

  • 新規MTJビルダーにより、磁気抵抗メモリ(MRAM)アプリケーション用のスタック構成の構築が可能。
  • HKMGビルダーが生成する構造の機能と品質が改善。
  • 多層ビルダーの一般的な改善、結晶界面のアライメント改善のための変位ベクトルの指定。
  • HKMG及びMRAMスタックの構築方法を説明したチュートリアル

欠陥を介する再結合のDFT計算

  • Shockley-Read-Hall (SRH)捕獲速度の計算が可能。汎関数としてLDA/GGAとハイブリッドHSE、基底としてLCAOとPlaneWaveが利用可能。
  • 蛍光スペクトルを計算し、蛍光放出実験のモデル化により欠陥の特徴を解析。
  • 専用のSRHアナライザーにより、高度な解析、結果の深掘り解析が容易。例えば、電子-フォノン結合の寄与をフォノンモードごとに個別に解析可能。

 

DFTにおける均一電場モデル

  • 周期境界条件で電場印可する機能を実装。
  • ベリー位相分極理論に基づき、電場により誘起される電気的なエンタルピー、力、及びストレスの影響を取り入れたモデル。
  • LCAOとPlane-Waveをサポート。
  • 絶縁体と半導体に対応(金属には非対応)。
  • 分極とBorn有効電荷の再計算により、TAT/QoRトレードオフの制御が可能。
  • 軌跡上の電荷を、固定電荷として扱うことも、更新しながら扱うことも可能。
  • 分極とBorn有効電荷の計算に関するパフォーマンスが向上。新たに有効になったマルチレベルの並列処理を使用すれば、更にパフォーマンス向上。

 

原子スピンダイナミクス- Vampireとの統合

  • Vampire(原子磁気シミュレーションコード)がワークフローに統合。MRAMテクノロジーの磁気トンネル接合における、磁気自由層のスピンダイナミクスと安定性の研究が可能に。
  • 計算法の理想的組み合わせを提供するワークフロー: 
    • スピンダイナミクス計算へのDFT設定の入力
    • 機械学習力場を使用して、同じ精度で 1,000倍以上高速に計算可能。
    • Vampireは、現実的なサイズ(原子数5,000以上)の系に対し、様々な特性を原子スケール計算で可能。
  • NanoLab GUIを用いて、DFT-to-Vampireシミュレーション フローの設定が可能。必要な入力パラメータであるハイゼンベルグ交換定数と磁気異方性エネルギーを計算するためのスクリプトを自動構築。
  • ラッパークラスを介してQuantumATK PythonスクリプトからVampireの計算を実行(WindowsとLinuxの両方で可能)。
  • GUIの専用プロットツールにより、Vampireが出力するキュリー温度、異方性エネルギー、及びヒステリシス曲線の視覚化、解析が可能。
  • STT-MRAM & SOT-MRAM、スイッチング時間 & モード、温度依存性、スキルミオン、2D磁性材料などの研究に利用可能。詳細はVampireのWebサイトを参照。

 

COSMO及びCOSMO-RS

溶媒和効果を研究するための COSMO (COnductor-like Screening MOdel)と、溶解度やその他の様々な特性を計算するためのCOSMO-RS、これらは本リリースを代表する新機能です。

  • 溶媒を完全な導体、または特定の溶媒に対応する誘電体として扱い、計算を実行。
  • COSMO計算は、新規ワークフロービルダーにて自動的に設定可能。分子やバルクのLCAO-DFT計算、及び表面系のデバイスLCAO-DFT計算におけるオプションとして設定。
  • 分散エネルギーやキャビテーションエネルギーなどの非静電効果は、線形回帰モデルで推定。
  • 非静電項及び気相項を含む溶媒和自由エネルギーは自動的に計算。
  • COSMO溶媒表面はViewerで視覚化が可能。溶媒キャビティの形状と表面全体の電荷分極を表示。

COSMO-RSは、COSMO計算で生成された表面電荷を使用して分子の化学ポテンシャルを計算するCOSMOモデルの拡張。 COSMO-RSアナライザーのGUI機能は次のとおり。

  • 温度や溶媒組成といった異なる特性の計算も簡単に設定可能。
  • 結果はグラフとテキスト形式で表示。
  • 分子のシグマプロファイルとポテンシャルも表示可能。
  • アナライザーは約1,500 分子のデータベースを内蔵。COSMO-RS計算に使用可能。
  • シンプルなドラッグ&ドロップインターフェイスを用いて、新しい分子をデータベースに追加可能。各分子に対する適切なDFT計算設定は、ワークフロービルダーから自動的に設定。
  • COSMO-RSのパラメータは、COSMO-RSアナライザーから編集可能。一部の定義済みパラメータセットを選択するか、ユーザー定義のパラメータセットが使用可能。後の使用のためにパラメータセットの保存も可能。

 

R2SCAN交換相関汎関数

  • 最近開発された r2SCAN meta-GGA汎関数が利用可能。GUI のスクリプタにて簡単に選択可能。
  •  r2SCANは(SCANを上回る)rSCANと同等のパフォーマンス。但し、rSCANと異なり、r2SCANは交換相関の拘束条件を満足。

 

LCAOにおけるPAW法 (ベータ版)

  • U-2022.12リリースから、PlaneWave-DFT計算で利用可能なPAW(Projector Augmented Wave)法がLCAO-DFT計算でも利用可能に。但し、本リリースの段階では、バルクと分子にのみ利用可能、GGA汎関数のみ使用可能。解析機能に関しても、全てサポートされているわけではないことに注意。
  • 高速で正確な計算のために最適化された基底関数が利用可能。

 

新規Workflow Builderによる単純および複雑な計算ワークフローの設定

ワークフロービルダー(ビデオを見る)を用いると、後の様々な計算への利用を見据えた、複数のシミュレーションから成る複雑なワークフローの設定が可能。注目すべき機能は次のとおり。

  • ワークフローブロックの編集において、パラメータの値を変更すると、デフォルトからの変更を明示するために、値が強調表示される。デフォルトにリセットする機能もあり。
  • 変更されたワークフローブロックはすべて「ブロック」カタログに保存でき、他のワークフローで簡単に再利用可能。
  • ワークフローブロックは、「ブロックのブロック」と呼ばれるコンテナブロックにグループ化可能。ブロックのブロックは保存でき、非常に複雑な計算設定でも再利用可能。
  • ワークフロービルダでは、「ロードブロック」から計算済みの結果のロードが可能。全てのQuantumATKオブジェクトをロードし、ワークフロー内で直接使用することも可能。例えば、計算済みの結果をロードして追加解析、などが可能。
  • スクリプトにエクスポートする場合、ワークフロービルダーにてファイル名とオブジェクトIDの両方が指定可能。

 

分子動力学と力場に関する更新

表面プロセスシミュレーション

  • 厚層成長でも効率的に熱化可能な可変サーモスタット。

ポリマーシミュレーション

  • ビーズ定義の適用による、自動的な粗視化表示。

イオンダイナミクス

  • BerendsenとNose-Hooverサーモスタット、両方の利点を備えた、新規の最先端NVTサーモスタット(Bussi-Donadio-Parrinello stochastic velocity rescaling)を実装。
  • 構造最適化のトラジェクトリを、力とストレスの生データとともに保存するオプションを追加。MTPトレーニングに利用可能。
  • 構造最適化OptimizeGeometryクラスのパラメータdisable_stressをoptimize_cellに改名(わかりにくい名前だったので)。

古典的力場関数

  • Grimme-D4に基づくD4-EEQなど、最先端の電荷平衡化手法を実装。
  • 様々な組成のガラス用の新しい力場を実装。
  • ReaxFFパラメータセットの追加実装。
  • AlGaN用の新しいStillinger-Weberパラメータを実装。
  • InSnO (ITO)用の原子コアポテンシャルを新規に実装。
  • CPU及びGPUバージョンのパフォーマンスを若干改善。

 

GUIに関する様々な更新

  • 仮想マシンのグラフィックスサポートの改善。
  • Data Tool、Builder、Workflow Builder、Viewer、及びDatabase Toolは、メインインターフェイス内で起動(ビデオを見る)。EditorとCustom Scripterのみ別ウィンドウとして起動。
  • ビューアーでTrajectoryオブジェクトを可視化する際、所望の物理量を指定し、原子を着色する機能を追加。
  • Interface Builderの更新。
  • プロットグリッドレイアウトにおいて、より正確なドロップが可能に。

 

QuantumATK U-2022.12のご利用について

  • メンテナンスサービスを受けておられるお客様SolvNetPlusから、QuantumATK U-2022.12、リリースノート、及びインストールガイドのダウンロードが可能です。
  • QuantumATK U-2022.12では、ライセンスに関し大きな更新がなされました。QuantumATK U-2022.12のご利用を希望される全てのユーザーは、ライセンスファイルの更新が必要です。 ご不明な点がございましたら、弊社または御社のライセンス管理者までお問い合わせください。
  • ライセンスキーファイルは以下のリンクから入手できます。 https://solvnet.synopsys.com/SmartKeysにて''Key Retrieval''をクリックしてください。

追加リソース

QuantumATKの詳細について

QuantumATKにご興味のある方は、詳細について、こちらのサイトから、もしくはquantumatk-japan@synopsys.com までお問い合わせください。